【考察】AIに仕事を奪われイラストレーターがいなくなるのは嘘だと思う理由
Stable DiffusionやMidjourneyなど、イラスト生成AIが登場して、「イラストレーターの仕事がなくなるのでは?」とまことしやかに囁かれています。
確かにStable Diffusionを初めとする生成AIのイラストは凄まじいクオリティです。
ですが本音を言うと、この品質でイラストレーターの職が失われることはないと思っています。
柊個人は3つの経験があります。
- イラストを描いていた経験
- イラスト作成を依頼した経験
- Stable Diffusionでイラストを生成した経験
この経験を基にAIの凄さを認めつつも、なぜ生成AIの登場でイラストレーターという職が失われることはないのか考察を交えて解説してきます。
AIの登場で不安を感じている方は、「今後生き残るためにはどうすればいいか」を考える助けになれば幸いです。
結論:AIをツールとして活かせるイラストレーターが生き残れる
- イラストレーターという職業がなくなることはない
- しかし「低品質のイラスト作成依頼」は減る
- だがAIでイラストを作成するのではなく、AIをイラストレーターの補助ツールとして使用する方向で普及と予想される
- イラストレーターとしてのスキルを持っており、AIをツールとして活用できるイラストレーターが生き残る
そう結論付けた理由について順を追って説明していきます。
AIとイラストレーターの違い
なんとなくわかっていることですが、改めてそれぞれの違いを表にしました。
イラストレーター | AI | |
---|---|---|
構図の自由度 | イメージ通りに描画が可能 | ある程度イメージ通り |
クオリティ | 技量に依存 | 高クオリティ |
作業時間 | 大 | 極小 |
量産性 | 低い | とても高い |
同一キャラの別イラスト | 自由に可 | 違うキャラになってしまうことが多い |
イラストの著作権 | 明確 | 明確(?) |
商用利用の可否 | 明確 | リスクあり |
構図の自由度はイラストレーター
「こんな構図のイラストが作りたい」
そう思ってもAIではイメージ通りのものがなかなか出てきません。
イラストレーターなら相談しながら進めれば、ほぼほぼイメージ通りの仕上がりになります。
しかしAIは「ある程度イメージ通り」が限界です。
本当にイメージ通りのイラストを作成したいときに、AIは向いていません。
実際「夜空に浮いて月に手を伸ばす少女」の絵を生成しましたが、私のイメージとはかけ離れていました。
いくらクオリティが高くても必要としているイラストが作成できなければ、観賞用の域を出ません。
総合的なクオリティはイラストレーター
AIが生成した画像はクオリティが高いと評されていますが、
技術のあるイラストレーターとAIにはクオリティに大きな差はありません。
AIは手足や顔が歪んだりするため、むしろイラストレーターの方がクオリティが高いと言えます。
しかし「同じクオリティならAIの方が良い」。
コストを意識する企業はそう考えるため、やはりイラストレーターにとってAIは脅威であることに変わりありません。
完成までの作業スピードは圧倒的にAI
下図はStable Diffusionで生成したイラストです。
このイラスト作成にかかった時間はプロンプト作成を含めてたったの15分程度。
クオリティも非常に高いです。
もし人間のイラストレーターが同じ絵を描こうとした場合、数日はかかります。
高いクオリティのイラストを短時間で大量に生成できる。
この部分において人間は絶対に勝てません。
これで構図を自由にデザインできるようになったら本当にヤバいですね。
量産性も圧倒的にAI
AIはプロンプトで構図を指定すれば、一晩で1000枚以上のイラストを生成することができます。
求めているイラストの構図がある程度決まっているなら、大量に生成させたイラストからイメージに近いものを選択するだけで良いです。
大量のイラストから選択するのも時間がかかりますが、製作コストは圧倒的に圧縮できます。
また、パラメーターを弄るだけでいろいろなイラストが生成できるので、ソーシャルゲームのキャラクター作成にはこれほど強力なツールはありません。
反面、高クオリティとはいえ、使い物にならないゴミ絵を大量生産する可能性もあるため、量産性が高いからと言って手放しに誉められないのが実情。
同一キャラの別イラストはイラストレーター
ノベルゲームなどで同じキャラクターの違う立ち絵を作成したいとき、AIは全く役に立ちませんでした。
下図は同じシード値を使って「立ち」と「座り」のイラストを生成したものです。
プロンプトは「standing」と「sitting」以外全く同じにして、シード値も同じにしたにも関わらず、「似ているけど違うキャラクター」が生成されてしまいました。
イラストレーターならこのようなことはないため、ノベルゲームなど「同じキャラクターで多種のイラストを必要とするモノ」ではイラストレーターの需要が勝るでしょう。
しかし拡張機能の「ADetailer」を使用すれば表情差分の作成は簡単にできてしまいます。
生成されたイラストの著作権の扱いについて
イラストレーターも企業も最も気にしているのが「著作権」についてだと思います。
文化庁が公開している資料にこのような記述があります。
AIを利用して画像等を生成した場合でも、著作権侵害となるか否かは人がAIを利用せず絵を描いた場合などの、通常の場合と同様に判断されます。
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/pdf/93903601_01.pdf
つまり、AIも人も同じ基準で著作権違反を判断するということです。
「AIは他人の著作物を勝手に使って学習しているから、それで生成された画像は著作権的に問題がある」と言われていますが、AIだから無条件にNGになることはないと解釈できそうです。
この文章を見たとき「ああ、なるほどな」と思いました。
イラストレーターは上手い人の絵をたくさん見て、たくさん真似をしながら描き方の技術や知識を取り入れ、それらを自分の中で組み合わせて、時間をかけて自分の絵柄に落とし込んでいきます。
AIは上手い人の絵をたくさん見て、描き方の技術や知識を取り入れ、それらを組み合わせて、絵を生成します。
考えてみると人間もAIも、絵を描けるようになるまでにやっていることは同じなのです。
違いはAIの方が圧倒的に学習効率が高いという点です。
イラストレーターの技術を長い時間をかけて培ってきたのに、ぽっと出のAIに脅かされれば、心穏やかにいられるはずはないですよね。
AIイラストの商用利用について
文化庁が公開した著作権の扱いを見る限り、法的なリスクはイラストレーターに絵を描いてもらった場合と違いはないと考えても良いでしょう。
ただ、AIイラストの商用利用についてまだ実例が少ないため、この先どういう問題が起こるのか予測が難しいです。
AIイラストを用いた作品やそれを取り扱う商用サイトに対する批判も相当数あります。
たとえばDLsiteではAI生成作品の取扱いが停止されたり、制限されたりしました。
そのような背景もあり、AIイラストの商用利用は法整備もガイドラインも追いついていない現状では扱いが難しいと言わざるを得ません。
AIが生成したデータで学習したAIはゴミになる
『他のAIが生成したデータだけで学習したAIは最終的にゴミを生成するようになる』
イギリスとカナダの研究グループがこのような論文を発表しました。
論文(原文):https://arxiv.org/pdf/2305.17493v2.pdf
これから査読されるとのことですが、AIを数世代に渡って交互に訓練させた結果、「オリジナルのソースが中世の建築物に関するテキストであったにも関わらず、野ウサギについて語ったケースがあった」とあります。
文章生成AIのケースですが、イラスト生成AIでも同じようなことが発生するかもしれません。
AIイラストが世に溢れるとAIイラストで学習したAIが出てくるでしょう。
もしかするとAIは段々と劣化していって、生成AIは使い物にならなくなる未来もあるかもしれません。
絵の流行を作り出すのはイラストレーター
イラストにも流行り廃りがあります。
20年前と今を比較すれば違いは一目瞭然です。
その流行りを作るのはイラストレーターです。
過去の絵から学習するAIには真似ができません。(技術が進歩したらできるようになるかもしれませんが)
新しいものを創作する。
これは人にしかできないことです。
予想される未来
文化庁が公開している「AIと著作物」やAIの性質を考慮すると、今後は「人間が大まかな構図を描いて、それをAIに清書/着色させる」という使い方が主流になるのではないかと思います。
(今もやろうと思えばかなり近いことができます)
それこそ絵心の全くない人間が書いた子供の落書きのようなデザイン案をAIに渡し、
AIはイラストレーターの時短ツールとして活用される未来
0から10までを作成してくれるAIは、今後ガイドラインや法整備が進むにつれて陳腐化していくと予想されます。
誰でも簡単に高クオリティのイラストを生成できるのがAIの強みですが、言い換えるとオリジナリティがありません。
似たようなイラストが溢れ返って、AIイラストの価値が下がると予想されます。
生成したイラストに突出した付加価値を付けることができれば良いでしょうが、いまのようにプロンプトでイラスト生成は近いうちに頭打ちになるとなると思います。
そうなったときに考えられる次の進歩はイラストレーターの作業を短縮してくれる補助ツールです。
AIにイラストを描く仕事を奪われるのは一過性のもので、最終的にはツールとして落ち着くでしょう。
創作ができるのは人間だけです。
まとめ
以上のことから、「イラストを量産するだけの仕事はAIに奪われるが、創造性を必要とする仕事はイラストレーターが必須なので職はなくならない」という結論を出しました。
高クオリティのイラストを短時間で生成できるのAIは確かにすごいですが、正直それだけです。
人間の求めるクリエイティブなことはできません。
誰でもお手軽に高クオリティだけどそれっぽいイラストを大量に生成し、それがネット上に溢れ、それを学習したAIがゴミを生み出すようになり、ゴミを使って学習したAIが氾濫するでしょう。
そうなればAIは進化の方向性を変えざるを得ません。
その方向性とはイラストレーターの作業を効率化する補助ツールとしての進化です。
一時はイラストレーターの仕事が奪われるのは間違いありません。
AIで事足りる仕事はAIに取って代わられるでしょう。
ですが、AIができるのはあくまで作業の効率化。
イラストレーターの一番の強みはあなたの中にある独創性です。
それをAIを駆使していかに短時間で独創的でクリエイティブなイラストを仕上げるかが重要になると思います。
余談:ClipStudioの画像生成AI機能のお話
「ClipStudio」を提供する株式会社セルシスは『画像生成AIパレット』という機能を実装しようとしていましたが、ユーザーの反発を受けてそれを撤回しました。
個人的には、ユーザーの声に耳を傾けたセルシスは英断だったと思っています。
まだAIイラストの扱いについて世の中が追いついていない状況で、「ClipStudioを使用しただけで画像生成AIでイラストを作ったと取引先に思われる」のは、イラストレーターにとって不利益しかありません。
セルシスはちょっと勇み足だったな、というのが率直な感想です。
しかし「AIを使ってイラストレーターの作業時間を短縮する」という方向ではAIの活用を頑張ってもらいたいです。
AIは「短時間で作成できるがイラストの細かい調整が苦手」、イラストレーターは「時間はかかるが柔軟にイラストの調整できる」というそれぞれ得手不得手があります。
イラストレーターがAIを活用すればお互いの苦手部分を補うことができます。
セルシスには今回の失敗でAIを諦めるのではなく、不安を覚えているイラストレーターにとってAIが強い味方になるような、そんなものを作って欲しいです。